『夢でまた会いましょう』メアのお話。 ----------------------------------------------------------- ----------------------------------------------------------- 「メア?それが私の名前?」 私が聞くと、彼は笑って頷いた。 「そうだよ。君はメア。それが君の名前」 「メア…メア…メア………」 とても嬉しかった。何度も自分につけてもらった名前を言ってみると、その度に胸の辺りがほわんとした。 「気に入った?」 「うん!」 気に入った、というよりは、彼が名前を付けてくれたことが嬉しかった。 自分に名前が出来たことが嬉しかった。彼が一生懸命考えて付けてくれた名前。 私はメア。私はメア。……嬉しい。 「ありがとう」 「喜んでもらえてよかった」 彼はそう言って、やっぱり微笑んでくれた。 私達はまた並んで歩き始めた。 彼が私を「メア」と呼んでくれる度に心が弾んだ。 意味も無く名前を呼んでくれるよう、ねだってみる。彼は笑顔でそれに答えてくれる。 とてもとても嬉しかった。 あ、こういうのを「シアワセ」っていうんだよね。 彼が不意に止まった。 視線の先には、白い建物があった。 「どうしたの?」 私は聞いた。 彼はぼーっとしている。 「ねえ」 呼びかけても笑顔もないし、返事すらない。 私は何だか不安になった。 袖をひっぱって注意を引こうとしようとしたとき、漸く彼がこちらを向いてくれた。 ちょっとほっとする。 「ねえ」 今度は彼からの呼びかけ。 「うん!」 私はいつもの彼の笑顔に負けないくらいの笑顔で答えた。 「あれ、邪魔だと思わない?」 「じゃま?」 あれ、と言って彼が指差すのは、白い建物。 私は首をかしげた。 「何で?」 「あんな白いもの、いらないよ。それよりも、綺麗な花畑を作ろうよ。色とりどりで、すごく綺麗な」 「お花畑!」 それは名案だった。大体、私も白はあまり好きじゃない。 前の白い空間にひとりぼっちだった時のことを思い出すから。 「そうだね、そうしよう!…でも、」 どうすれば、と言いかけた時、いきなり白い建物が下から崩れていき、上の方も崩れていった。 私はびっくりした。 「こうすればいいんだよ」 彼は事も無げに言った。 白い建物の残骸は、その内すーっと消えていった。 「さあ、お花畑が欲しいって、念じてみて」 「念じる?」 「強く心に思い描くんだ。そうすれば、きっと」 「う、うん、分かった」 私は何が何だか分からなかったけど、彼の言うとおりにやってみた。 目をぎゅって閉じて、お花畑を思い描いた。 「ほら、目を開けて」 彼にそう言われて、私はそっと目を開いた。そこは色とりどりの世界だった。 「わあ!」 私ははしゃいで、お花畑の中に飛び込んだ。さっきのことも忘れて、夢中になって遊んだ。 しばらく遊んだ後、彼が遠くで見ていることに気付き、慌てて彼の元に戻った。 「ねえ、綺麗だね」 「うん、とても綺麗」 彼はにっこり微笑んだ。 「どうしてこんなことが出来るの?」 そう言うと、彼は一呼吸おいた後、笑顔を絶やさぬまま言った。 「夢の中だからだよ」 その後、私と彼は違う遊びをするようになった。 白い建物を次から次に壊し、そこにお花畑を作る。 私は彼がどうしてこんなことをしたがるのか分からなかったけど、彼が楽しそうだったからそれで良かった。 彼が喜んでくれればそれで良かった。 白い建物を壊し尽くしたら、次は「学校」の番だった。 私達はまた「学校」を壊していき、そこに今度は海を作った。 次には「家」。そこには小川。 その次は「会社」。そこには山。 次から次へと壊していって、私達はどんどん綺麗なものに作り変えていった。 だんだん面白くなってきて、私も彼に負けないようにいっぱいいっぱい壊していった。 でも、ある時、いつものように建物を壊していたら、あの時の女の子が壊れた建物の側で泣いていたの。 「どうしたの」 って近づいたら、 「来ないで!」 って言われたの。私はびっくりして立ち止まったわ。 そしたら彼が、後ろからゆっくりと近づいてきて、私の横で立ち止まったの。 「どうして?」 泣きながら彼女はそう言った。 私は何が何だか分からず、彼の方を見た。 そしたら彼は…笑いながら言ったの。 「これは夢だから」 その顔は笑顔だったけどとても怖くて…。そして、いつもの彼の笑顔じゃなかった。 3へ |