『夢でまた会いましょう』メアのお話。


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彼女は泣いていた。

彼は笑っていた。











私はただおろおろするしかなかった。
どうしてこうなってるのか分からない。
何で彼女は泣いてるの?何で彼はあんな顔で笑ってるの?
私は何も分からなかった。




「何で」

もう一度彼女が言った。泣きながら言った。
そしたら彼はもう一度言った。

「これは夢だからさ」


気がつけば多くの人が泣いていた。血がたくさん出ている人もいる。横たわっている人にしがみついている人もいる。





彼は面白くなさそうに言った。

「汚いな」

次の瞬間には、彼女も、建物の残骸も、周囲の人々も消えていた。










「何で」

今度は私が言った。
彼は何でこんなことをするの?何で彼女は泣いていたの?
何で貴方はそんな顔で笑うの?

「夢だからだよ」

彼は優しい笑顔でそう言った。私の目には、さっきまでとは違って少し悲しそうに映った。

「夢?」

「そう、夢。この世界は本物の世界じゃないんだ」

意味が分からなかった。本物じゃないって?どういうこと?

「だから、どんなに壊したって、現実じゃ何も変わってないんだよ」

「げんじつ」って何?また分からない言葉が出てきた。
よく分からないと首を振ると、彼はそれでいいよ、と頭をなでてくれた。













また二人で花畑を作った。
今度は壊さないで、何も無いところに二人で作った。
色とりどりの花の中で、彼は笑っている。私も笑っている。二人で笑って、一緒にずっと遊んでいた。



彼が追いかける。私がそれから逃げる。
花畑の中で追いかけっこ。彼はわざと捕まえられないぎりぎりのスピードで追ってくる。
私は捕まらないように走り回る。
走り回って走り回って、そして追いかけてくる彼をちらっと見たとき、彼の姿はなかった。








私は辺りを見回した。
ちょっと離れたところに彼はいた。膝をついて胸を押さえている。

「どうしたの?」

私が聞くと、彼は何でもない、と言って、そろそろ行かなきゃ、と付け加えた。
ああ、また彼とお別れの時間だ。

「また遅く来たら起こるからね!」

軽く冗談を言うと、彼はうん、と言って、いつもの笑みを浮かべてくれた。



そうして、また会う約束をして私達は別れた。














「お別れ?」

突然の言葉に、私はびっくりした。
彼の口からは、確かにその言葉が出ていた。

「何で?!嫌よ!」

彼はただ黙って微笑んでいた。
何でそんなに笑っていられるの?何でお別れなんて言うの?何でお別れしないといけないの?

「ねえ、何で?何でなの!?」

必死に彼を揺さぶると、彼は苦しそうに顔を歪め、それを無理やり笑顔に変えた。

「もうすぐ僕は、夢も見れなくなっちゃうんだ。だから、お別れなんだよ」

夢を見るって何?よく分からない。何でお別れなの?納得がいかない。

「ねえ、泣かないで、メア」

彼が私の名前を呼んでくれる。でも、今の私は笑えなかった。

「僕、もうすぐ現実からも、夢からもいなくなるんだ。最初は現実から、その次には夢から」

「いや、嫌!!いなくなるなんて嫌!何で?何で一緒にいてくれないの?」

彼が困るのは分かっていたけど、それでも止めることが出来なかった。私は彼と一緒にいたい。
どうして駄目なの?

「僕、楽しかった。いけない事だって分かってはいたけど、それでもやってみて、少しすっきりして、でも、ちょっと悲しかった。何で僕だけ、って皆のことを妬んでいたけど、やっぱり皆のこと、嫌いじゃなかったんだ」

彼の呟きは私でなく、自分に言い聞かせているみたいだった。
ひどく悲しい顔で、彼はそれでも笑っていた。

「メア、君のこと、大好きだよ。ひどい名前つけて、ごめんね」

ひどい名前?ひどくなんかないよ。私、この名前好きだもん。だって、貴方が付けてくれたんだから。
そう言ったら、彼は苦笑めいた顔をして言った。

「ナイトメア。僕の素敵な悪夢」

あくむ?あくむって?




「ごめんね。もう、駄目みたいだ」

彼はそう言うと、私を抱きしめた。ごめんね、ごめんね、と囁く。

「何で?!やだ、嫌よ!置いていかないで!」

私は彼を抱きしめ返した。彼の目が私の目を覗き込む。

「じゃあ、ね……メア………。また、いつか…会えるかな?」

「やだ!行かないで!!」

「笑って。心はずっと君の側にいるから。いつだって君のことを考えているから」

「駄目!!」

「…………………メア………、」



その瞬間。彼の姿はかき消すようになくなっていた。
腕の中には何もなくなっていた。




「いや……………行かないでーーーーーーーーー!!」








その時の私は、「死」というものを知らなかった。








私は彼の笑った顔が好きだった。
彼の笑顔が大好きだった。
ただ笑って欲しくて、ただ笑いかけてほしくて、一緒に笑っていたくて。


でも、もう彼はいない。



ただ笑って欲しかっただけ。笑っていたかっただけ。
彼が喜ぶことをして、なのに何で彼は、あんな顔をしていたんだろう。
彼がいない今となっては、それだけがどうしても分からなくて、いつまでも、いつまでも悩んでいた。
















今の私はもうそんな子供じゃない。
普通の「人間」みたいに姿は大きくならないけど、昔知らなかったことも色々分かるようになった。
ここは「夢」。「夢」の世界。
現実を映す虚像。偽りの世界。



今日も私は一人きり。
彼はもういないから、一人でぶらぶらしながら遊び相手を探していた。



歩いていると、一人の男の子が見えた。
「家」の前で立ち尽くし、どうやら泣くのを我慢しているみたいだった。


不意にその顔が、彼と重なってみえた。
…そんな顔しないで。笑って。…私は、笑った顔が好きだから。
そんな顔、似合わないよ。笑って。笑って……
どうにかして笑わせてあげたい。




気がついたら、彼に声をかけていた。


                              「夢でまた会いましょう」に続く












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後書き



ごめんなさい。どうしようもなくダークです。しかもありがち…かな?過去話。
お礼としてこんなのでいいのでしょうか…;
しかも「彼」の名前最後まで出てきませんし…。落ちなしで尻切れトンボ;
それでも気に入ってくだされば幸いです。
このS・Sは、「夢でまた会いましょう」のキャラクターデザインをしてくださった季秋紗都様へのお礼小説です。
ボイスドラマを全て公開し終わったらこの小説もサイトにUPする予定です。
どうか、これからも「夢でまた会いましょう」をよろしくお願いします。
季秋紗都様、本当にありがとうございました。


                          2004.2.18   モート





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